FLOWERS四季 01

2022.07.06
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「季節と共に成長してゆく少女たち」をテーマに制作された百合系ミステリィアドベンチャー「FLOWERS」シリーズがNintendo Switchに登場!
全寮制のミッションスクール「聖アングレカム学院」を舞台に描かれる少女たちの友情と成長、そして純愛の物語を、美しい音楽と繊細なビジュアルと共にお届けします。

■シリーズ全4篇を1パッケージに収録!
春篇から冬篇までの4つの季節を通しで遊べる「FOUR SEASONS」モードと、4つの季節を春篇から個別に遊べる「ORIGINAL」モードを搭載しています。
2種類のプレイモードは、タイトル画面からいつでも変更が可能です。(Nintendoストアページより抜粋)

四季をめぐる物語、やっと一巡。

ADV(アドベンチャーゲーム)の界隈に疎かったわたしが初めて手を出したのが、PULLTOPのPS Vita版『この大空に、翼をひろげて CRUISE SIGN』でした。当時読んでいたゲーム雑誌『ファミ通』のクロスレビューを見て、その高評価に心を動かされました。わたしはふだんから小説に親しんでいます。しかし(むしろ、だからこそ、かもしれないけれど、)ゲームでありながら文章を読み進めるタイプのADVジャンルを遊ぶことにはじめは抵抗がありました。萌え系やキャラで売るようなものという偏見もあって、紙の本に勝るものはないという気持ちが強かったのでした。

とはいえ、初めて触れた『この大空に、翼をひろげて』はとてもよい作品でした。主人公たちは空に向かうために準備を重ね、仲間たちと助け合いながら様々な困難を克服し、いざ空の上に向かうシーンになれば自分も共に努力してきたような気持ちになれ、雲の上で見ることのできた景色を思うと、紙の本に勝るとも劣らない感動がありました。それからシナリオに力を入れている作品にかぎってですけど、ADVゲームを遊ぶようになりました。少し前にPS Vita版『ひぐらしのなく頃に 粋』をコンプリートしました。グリザイアシリーズ三部作も遊びました。途中ボリューム満点という触れ込みの、『星織ユメミライ』という作品を、これもPS Vita版で入手して半分ほど遊びました(しかしこれはそこで止まっています)。この星織ユメミライのVita版を販売していたのがプロトタイプで、同じプロトタイプ作品で何かないかと探したときに見つけたのが、当時春編が発売され、夏編の発売を一か月後に控えていた『FLOWERS』でした。

春編・夏編は、PS Vita版で購入して、春編を遊びました。そのときはあまり本腰を入れて遊ぶ気持ちになれず、ぐずぐずするうちに秋編、冬編もリリースされ、パッケージを買うタイミングを逃します。そのうち、PS Vitaは本体が製造中止、ソフトも売り場面積が減少してゆき、過去のハードになっていくようでした。そのころには、『FLOWERS』四作を遊ぶ機会はないかもしれないと諦め始めていました。しかし意外や意外。PS4版で春夏秋冬の四作をひとつにまとめた『FLOWERS四季』が発売され、その後、Switch版にも『四季』が来ます。そこでようやくにして去年の秋に購入しました。

以来、空き時間にちょっとずつ進め、ようやくきょう、冬編のグランドフィナーレを迎え、春編から続いてきた長い物語の結末を見届けることができました。春編からずっとあった伏線が冬編でしっかり回収されました。主人公の白羽蘇芳を含め、主要登場人物が、季節が巡る中で着実にその言動や行動、情動の面において成長しているのがわかりました。

春編。三人のアミティエ。

 

白羽蘇芳、匂坂マユリ、花菱立花の三人のアミティエをめぐるストーリーがメインになる春編。集団生活の中でいかに自然に振舞い、気の合う仲間を見つけ、友達を作ることができるかに心を悩ませる主人公蘇芳。蘇芳の抽んでた外見に、クラスメイトもその美しさを誉めそやすけれども、彼女はその称讃を素直に受け容れられない。内向的な性格は彼女の特徴である。また、家庭環境が原因で、どうせ自分なんて、といった消極的な性向を持つようになってしまった。そんな彼女がこれから三年間、同年代の女性ばかりの学院内で寮生活を送ることになる。

去年までは同学年の二人がペアを組み、同室で寝起きし、教室との往復を送ることがアミティエ制度の決まりだったが、あることがきっかけとなり、今年からは三人が同室になるように変更された。

蘇芳・マユリ・立花、三人がそれぞれに想いを胸に秘め、ときに協調し、ときに反発し、他の二人の関係に嫉妬することもあれば、譲歩したり、三人の間の和を尊重したり、表だって荒れることは稀ながらなかなかに波乱に満ちた春を経験する。

しかしラスト、マユリは突然蘇芳たちの目の前から姿を消す。どんな事情があったのか。そして話は夏編へと引き継がれる。

蘇芳視点で進めながら、立花よりもマユリのキャラクターに惹かれるのは、大人しいより活発、活発というよりもすこし周囲を搔き乱すくらいの乱暴さに惹かれるところがわたしにはあるからだろうけれど、そのマユリがさっと退場してしまったのは個人的にもやもやしました。蘇芳の気持ちは置き去りになったまま、何が何かわからないままに終幕。マユリの話の続きはこの後、いつ語られることになるのだろう、と。

夏編。えりかと千鳥。

 

春編ではわたし的にちょっと苦手意識のあった八重垣えりかと、夏編から登場の、これも癖のある考崎千鳥の二人のアミティエのストーリーがメインに語られる夏編。

主張が激しく、簡単には折り合いがつきそうにない二人をアミティエ同士にする判断を下したバスキア教諭の慧眼。次第に二人は互いに居心地のいい関係に落ちつくことになる。孤立しがちだった生徒がちょっとずつ周囲に溶けこんでゆき、好ましい関係を形作っていくさまを、うまく表現しているなと思いました。いろんな場所で大小の衝突があって、それは確執に近い物もあったりするけれど、この学院の彼女たちは根気強く相手を理解しようと心掛けながら、それぞれに結びついてゆく。このゲームのテキストは文学的な香りも高く、作品の世界観・雰囲気づくりに最高の貢献をしているようです。

春編とは違った明るくて活発なストーリー。

移ろう季節に合わせてストーリーの質を変えていく企画。魅力的だと感じました。

秋編。オズの魔法使い。

 

ハロウィンパーティから始まる秋編。

学院における生徒会のような役割を果たすニカイアの会の会長八代譲葉と、副会長小御門ネリネ。二人は幼馴染であり、互いに支え合ってやってきた。助けるものと助けられるもの。そしてあることがきっかけで、助けていたものが助けられるものになり、助けられてきたものが助けるものになった。内心はずっと同じでありながら、外側を変化させなければ生きていくことができなかった二人。

学院は全寮制であり、生徒たちは皆、長期休暇以外の期間を親元を離れて生活する。家族から切り離され、アミティエと寝起きをともにし、同じ顔ぶれと限られた空間に生活する。そのほとんどが家族との間に確執を抱えており、それは春編や夏編で語られてきたほとんどの生徒の事情の中にも存在していた。

秋編のストーリーを進めるに当たって下敷きにされているのが、ライマン・フランク・ボームの『オズの魔法使い』。脳のないカカシ、心のないブリキの木こり、勇気のないライオン。心のないブリキは譲葉。勇気のないライオンはネリネに重ねられる。

譲葉は、ネリネに対して抱いていた劣情を彼女に打ち明けることを決意する。しかし拒絶され、思い描いていた希望は消え去り、消沈の彼女を慰める存在にすがることになる。

ふだん会長として、そうあるべきようにふるまうことを心掛ける彼女の弱さが垣間見える秋編。譲葉も、ネリネも、蘇芳たちより一年年上で、十分大人であるようにふるまうけれども、その奥には人としての弱さを抱える一人の女性の姿があり、やはり誰もと同じように葛藤する思いがあり、押し殺す気持ちがあり、冷静に理知的に計算高く振舞う非情さを持ち合わせている。彼女たちはある学園の秘密を知っている。そのことに関わっていくことになるであろう蘇芳のこともわかっていた。

蘇芳にある提案を持ちかけたのは、彼女を困らせたかったからではなく、やはりアミティエのために心を砕いてきた彼女に向けた適切な助力ということからだったのだろう。クリアした今、冬編にどれほど厳しいことが待っていても、やはり二人が蘇芳にかけていた想いはこの上ない物だったと思われる。

冬編。成長著しくて!

 

学院に来た当初、なにをするにもおどおどしていた蘇芳が、行動する人物に変化した。義母の幻影に悩まされながらも果敢に立ち向かっていく姿は勇敢そのもの。なんとしてもアミティエを取り戻すという決意が頼もしかった!

秋編で譲葉が発した言葉。あの場には、えりか・千鳥・立花の三人がいた。これから白羽が陥るだろう苦境から守ってやれるのは君たちしかいない的な。三銃士のようだなと思ったことも懐かしい。しかもそこに、苺と林檎の双子も加わる。上級生も力添えし、ついに蘇芳は尋ね人との再会を果たす。

個人的に秋編から冬編に向かうつれ、蘇芳を書痴仲間と呼び、かけがえのない関係にまでなっていったえりかの株は急上昇しました。蘇芳とえりかの強い結びつきは読書好きを通り越してのもので、本読みとしては羨ましい限り。しかしそんな蘇芳も学院の内情を調べる中で、どこまでの情報を仲間に開示するか、常にぎりぎりの判断を繰り返しました。各シーンにおける彼女の行動力。春編の彼女からは想像もつかないようなバイタリティの高さが示されました。

成長物語でした。ひとりふたりのではない。この物語に関わる人物全員が、この一年を通じて大きく成長していくさまが描かれていました。遊ぶことができてよかった。

もう一度春編の最初から再読したいと思えるほどによくできたストーリーでしたよ。

 

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